2022年、浅間国際フォトフェスティバルが
3年振りに開催された。
長野県の御代田町に国内外多くの写真家の
作品が自由な形式で展示されている。
2022年、浅間国際フォトフェスティバルが3年振りに開催された。
長野県の御代田町に国内外多くの写真家の作品が自由な形式で展示されている。
テーマは Mirrors & Windows。
'「鏡」に反射し、「窓」の向こう側に写真家たちが見せてくれる景色を見ながら、
アフターコロナの明日に向かう地図を
描いていけたら'
テーマは Mirrors & Windows。
'「鏡」に反射し、「窓」の向こう側に写真家たちが見せてくれる景色を見ながら、
アフターコロナの明日に向かう地図を描いていけたら'
そんなメッセージを知ってか知らずか
大自然の中でゆったりとアート作品を
鑑賞してきた。
そんなメッセージを知ってか知らずか
大自然の中でゆったりとアート作品を鑑賞してきた。
「あ、これは絶対行こう。」
フォトアートの季刊誌 IMA に掲載されていた ”浅間国際フォトフェスティバル” の告知記事を見た瞬間、そう思った。これまでこのようなフォトアートのイベントには訪れたことがなかったので何となく面白そうに感じたのと、参加する写真家のリストに知っている名前もちらほらとあり、単純に作品を見てみたいなと。日帰りの遠出としても丁度よい距離感ということで8月のお盆休みの1日を利用して妻と二人で行ってきた。
開催地は長野県御代田町の複合施設 MMoP(モップ)。敷地は適度に広く自然に溢れていて、幾つかの展示施設の他にショップやカフェなども併設されている、何とも心地の良い空間であった。訪れた日はお盆期間とはいえ平日でオープン直後の時間帯ということもあり、人は少なくゆったりとした時間が流れていた。展示リストを片手にのんびりと歩き回って作品を鑑賞し、写真を撮り、ああだこうだと妻と他愛のない話をする。
そんな夏のちょっとした体験がとても楽しく特別なものだったので、参加している約20人の写真家の内、一部の作品について彼らのステートメントを引用しつつ私が感じたことなども交えて少しだけご紹介したいと思う。
〈参加作家〉
小林健太、細倉真弓、石内都、グレゴリー・エディ・ジョーンズ、エリック・ケッセルス、キム・ジンヒ、木村和平、ピクシー・リャオ、セルジオ・スメリエリ、トーマス・マイランダー、水谷吉法、森山大道、野村佐紀子、大杉隼平、ロバート・ザオ・レンフイ、ヴィヴィアン・サッセン、沢渡朔、ロレンツォ・ヴィットゥーリ、イェレナ・ヤムチュック、吉田志穂
ピクシー・リャオ
ピクシー・リャオ(Pixy Liao)は中国・上海出身の写真家だ。女性のあり方、異性同士の関わり方について新たな可能性を模索している。
SDGsの目標に盛り込まれるなどジェンダー平等が大きなムーブメントとなって久しいが、それとは少し異なる観点で自らとそのパートナーを被写体として表現している。こと日本においては、"かかあ天下とからっ風"という言葉があるように、この写真を見て「これ、うちと同じじゃん」と感じる方も多いのではないだろうか。私と同じように。ちなみに、誤解なきよう申し上げておくが、”かかあ天下”の本来の意味は強い妻、賢い妻、働き者の妻を指す言葉である。
エリック・ケッセルス
床一面に敷き詰められた「足」の写真は、オランダ出身のエリック・ケッセルス(Erik Kessels)の「My Feet」という作品だ。これはエリック氏本人が撮影したのではなく第三者がSNSにアップロードした写真である。このようにインターネットの画像を自身の作品に利用するというアプローチは、最終的なアウトプットに違いはあれど、吉田志穂氏の「測量」とも類似している。典型的なタイポロジーの作品とも言える類型化されたこの写真群を見ていると、自然と自分も同じように撮りたくなるのだから不思議なものだ。そしてそれは作家の狙いでもある。余談だが、白癬菌(所謂水虫)に侵された足の写真が含まれているのを見つけた妻がその足を盛んに気にしていた。写真を撮るのも良いが、皮膚科に掛かるのもまた大切だ。それにしても、職業柄とは言え良く見ている妻に感心した。
ロレンツォ・ヴィットーリ
ジェントリフィケーションと呼ばれる下層住宅地の高級化によって住む場所を追われた住人などを撮影したのが、イタリア出身のロレンツォ・ヴィットーリ(Lorenzo Vitturi)だ。一際巨大にプリントされ、御代田写真美術館の建屋外壁に展示された写真に写るその眼光は鋭い。思えば私の住む街も20年前と今では大きく様変わりし、当時アーケードの中に雑多に並ぶ商店街があった場所にはタワーマンションが立ち並び、その麓には綺麗に整理された商業施設が出来た。鋭い眼光の人間はどの国のどの街にも、至るところにいるのだろう。きっと。
トーマス・マイランダー
浅間山を背景に幾つかの木箱がランダムに配置され、その木箱の背面には小さくてユーモアに溢れ、そして優しい青さで現像された写真が展示されている。
フランス出身のトーマス・マイランダー(Thomas Mailaender)によって撮影され、サイアノタイプという技法で現像されたこの写真を見て、私の頭には同技法で作品制作をしている堀江美佳氏が浮かんだ。加賀在住の堀江氏は自作の和紙を印画紙としており、その原料となる雁皮までも自ら森に入って採取しているのだそうだ。
みたいなことを思い出しつつ、「日光写真」とも呼ばれ自然の恵みを利用しているサイアノタイプはやはり自然がよく似合う、などと実際に見るのは初めてのくせに得意げに妻に薀蓄を垂れていたが、そんな事はロシア大統領と思しき人物が写っている1枚の写真を見つけ「この人物が本物なのかどうか」という議論が始まったことによって一瞬でかき消された。
キム・ジンヒ
赤い糸が絡んだ手が風になびいて優しく揺れている。韓国のキム・ジンヒ(Jinhee Kim)の「Finger Play」も雑誌などから引用した手のイメージに対して自ら糸で刺繍を施して写真として再構築した作品だ。が、どう見ても初めから糸が絡んだ手を撮影しているようにしか見えない。これらの作品は如何にも女性らしいと見えなくもないが、実は「刺繍」は女性を「縛る」という行為のメタファーなのでは、とも私には感じられた。ちなみに、ステートメントを読む限りそのような記載は特に見当たらない。だが、どう感じるかは鑑賞者の自由だ。
大杉隼平
行き先にLeicaのロゴマークの付いた ”いかにも” な古いスクールバスに乗ってみると、中にはLeicaで撮影された大杉隼平(Shunpei Ohsugi)の作品がずらりと並ぶ。写真は透明なフィルム紙にプリントされており、そこに写されている欧米の街並みとも相まって、シンプルにめちゃくちゃかっこいい、としかもう言いようがない。最近Leicaに興味が湧き始めている私にとっては刺激的すぎる作品だ。妻も大杉氏の写真を大層気に入った様子で、近場で氏の写真展が開催されたら行きたいとのこと。是非、行こうではないか。Leica、買おうではないか。
エリック・ケッセルス / セルジオ・スエルメリ
林の中に置かれた格子状のパネルにはエリック・ケッセルス(Erik Kessels) と セルジオ・スエルメリ(Sergio Smerieri)の二人が古書店などで見つけた市井の人たちの写真を再編集した「In Almost Every Picture」の作品が展示されている。このファウンド・フォトに写っているのは、カルロとルチアーナという夫婦の若かりし頃からおじいちゃん・おばあちゃんになるまで様々な場所、おそらく旅行先などで撮影したと思しき風景。本イベントで最もほっこりした空間であり、全ての写真はツーショットではなく別々となっていることからお互いを撮りあったのではないかとも思われ、その撮影風景を想像しても何とも微笑ましい。我々夫婦もかく有りたいものである。
細倉真弓 × 森岡督行
野村佐紀子 × 金子ノブアキ
木村和平 × 井浦新
敷地内に新たに開設されたという御代田写真美術館では、7名の写真家が様々な分野で活躍する男性を撮影した「NEW GENTLEMEN」が展示されており、この7名の中には木村和平(Kazuhei Kimura)もその名を連ねている。木村氏と言えば写真集「あたらしい窓」が特に著名だが、本イベントのテーマも ’Mirrors & Windows’ であり、奇しくもこの2つの「窓」には繋がりがある。そもそも、このテーマは1978年にニューヨーク現代美術館(MoMA)で開催された同名の ’Mirrors & Windows’ という展覧会に由来しているのだが、展覧会のキュレーターであるジョン・シャーコフスキーは写真家達を自己表現者としての「鏡派」と、外界の探求を行う「窓派」に分類した。木村氏は「あたらしい窓」の写真集の制作時にこのエピソードを知りタイトルの決定に影響を受けたという旨、またこの分類について自身を「鏡派かも」と過去にインタビューで語っている。そんな木村氏が井浦新をモデルとして撮影したポートレイトの向こう側に、物理的な「窓」が透けて見えるように配置されているのが何とも面白く感じられ、本イベントを最も象徴している展示のように私には思えた。
以上、10名程の作品について記載したが、実際はもっと多くの写真家の作品が展示されておりどれもが素晴らしく、是非多くの人が長野まで足を伸ばして鑑賞してほしいと思う。日光を浴び、風を感じながら写真を鑑賞するのは思いのほか気持ちが良い。来年もまたこの場所で開催してほしいし、開催されたら勿論再訪することになるだろう。
2022.08.10
写真はすべて Sony α7Riii + Voigtlander APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical にて撮影
浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA
https://asamaphotofes.jp/miyota/
会期:2022年7月16日(土)〜9月4日(日)
会場:MMoP(モップ)長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1